【アクタージュ】第49話 阿良也と巌 のネタバレあらすじ
病院から駆けつけた黒山がまず目を奪われたのは、秘蔵っ子の夜凪ではなく、現実と芝居の世界の狭間で、危ういほどの演技を見せる阿良也の姿。
そんな彼が思い出していたのは、自分が役者になる前のことでした。
昔女性の部屋を訪れて入浴し、礼とともに彼女を他の女性の名前で呼んだ阿良也は、頭に血がのぼった女性に頬を張られてしまいます。
謝罪するどころか悪意なく神経を逆撫でする彼に、彼女がもう一度右手を振り上げた時、突然部屋に不法侵入した巌がその手を掴み、謝罪しながらこいつは役者なので顔は勘弁して欲しいと言いました。
悲鳴を上げて非難する女性をのらりくらりと相手する巌に、阿良也は辟易したようすでまたつけてきたのかと問い、自分は役者になどなるつもりはないと告げます。
いいやお前は役者になりたいのだと否定した巌は、彼に稽古場に戻るよう促しました。
呆然と見送る女性の部屋を後にしながら、言外に精神病でも患っているのではないかと問う阿良也に、巌が自分は人の嘘がわかるのだと言いますが、彼は当然信じません。
阿良也は子供のころ巌に街頭でスカウトされ、よく学校をサボタージュして稽古場には出入りしていたものの、役者という仕事に興味を持ったことはなく、毎日死ぬほど退屈していました。
ある日ゲームセンターで乱入を受け、阿良也が筐体越しに相手を覗き込むと、そこには咥え煙草の巌が。
自分が勝ったら稽古に出ろと要求する彼に、あんた偉い演出家なんだろと呆れる阿良也は、暇なのかと尋ねました。
男にも女にも好かれるうえ、物覚えが良いためかすぐになんでもできるようになってしまい、日々の生活に倦んでいた阿良也に、巌はこう言います。
「阿良也勘違いしてるよ。お前の退屈はお前が器用なせいじゃない。お前がすべてを馬鹿にしているせいだ」
そしてお前には人が皆、自分の役割を演じる人形か何かに見えて、この世が滑稽な舞台か何かに見えているのだと断言しました。
図星を突かれたのかなにも言い返さない彼に、いいか阿良也と巌は続けます。
嘘吐きだらけのこの世界で、嘘を吐かない覚悟をした者を役者というのだと。
「だからお前は、役者になりたいんだ」
ある日稽古場で寝転がりながら、あんなに自分に絡む巌は、どこかおかしいのではないかと問う阿良也の言葉を肯定し、七生は彼の阿良也への執着は異常だと答えました。
「それ知ってる。嫉妬でしょ。女って皆同じだね」
阿良也の言葉に腹を立て、殴りかかろうとする七生を亀太郎が羽交い絞めしているところに、駆け込んできた団員が星アリサがきていると報告します。
彼女は自分をキャスティングしたいと言う巌の言葉を嘲笑し、ビジネスパートナーとしてなら付き合うと答えて席を立ちました。
こっそり覗いていた団員たちがこっちに来ると慌てる中、阿良也とすれ違った彼女はまっすぐに彼を見て、
「役者はやめておきなさい」
と忠告して去って行きます。
原因不明の鳥肌と、今まで見たことのなかった巌の後ろ姿に、阿良也の口元が自然と笑みの形に吊り上がりました。
(あれが役者)
【アクタージュ】第49話 阿良也と巌 の感想・考察・50話の期待
急停止で通行人を驚かせる黒山でしたが、駆けつけた彼が真っ先に目を奪われたのは、自分が育てている夜凪ではなく、暴走を始めたように見える一人の役者で、わたしはこれからどうなるのだろうと息を呑みました。
ところが今回は阿良也の過去のお話で、肩透かしを食らったわたしでしたが、まあこれはこれでありだなと、段々と引き込まれていきました。
知り合いの女性の部屋をホテル代わりに利用し、別の女性と名前を間違えるなど、最低なことをする阿良也でしたが、子供相手に嫉妬したりするような相手も相手なため、どちらにも同情はしませんでした。
子供のころからなんでもすぐにできるようになってしまうせいで、毎日に退屈する阿良也に、おまえが退屈なのは、お前がすべてを馬鹿にしているせいだと告げる巌の言葉は、非常に説得力があります。
それでも役者に興味を持てない彼を、星アリサとの邂逅が変えるシーンはとても印象的でした。
阿良也がいかにして役者を志す気になったのか、50話が待ち遠しいです。
【アクタージュ】第48話 別れ のネタバレあらすじ
”孤独”と”幸福”と”別れ”を経て、更に化けるジョバンニの感情。
それを見守る七生が、すすり泣くような音を立てたことに気づき、どうしてまた泣くのかと尋ねる亀太郎に、彼女は泣いていないから息を止めろと冷たく答えました。
そういえばこういう性格の奴だったと内心で呟く亀太郎に、七生が続けます。
「私……巌さんと出会えて、皆とお芝居できて本当に良かったって……」
同じころ、カムパネルラと呼びかけながら、求めるように伸ばされた、阿良也の手をすり抜けるように躱し、椅子から立ち上がった夜凪が口を開きました。
「ジョバンニ、僕もう行かなくちゃ」
突然のそっけない態度に呆然とする阿良也を見ながら、ルイは目に涙を浮かべて鼻をすすり、アリサは分析します。
二人の演技が切なく涙を誘うのは、今までのできごとから、もうすでに親友の死を理解しているのに、そこから必死に目を逸らそうとするジョバンニの見苦しさにこそ、人はシンパシーを感じるからだろうと。
脚本では、この後カムパネルラがジョバンニを置いていなくなり、現実に立ち返った彼が、親友の死を知らされて舞台は終わります。
舞台の上で演技を続ける阿良也に、異変が起こったのはその時でした。
「カムパネルラ、行くって一体どこへ――」
一瞬夜凪が巌と重なって見えた彼は、自らの目を疑うとともに、なんだこれは、僕と俺一体どちらの感情なのかと混乱に陥ります。
突然停止する阿良也に、仲間たちも戸惑いました。
阿良也は気づいたのです。
本当は自分も、ジョバンニのように理解していながら、目を逸らしていただけだったのだと。
日が経つにつれて小さくなっていく体は、老いのせいだと自分に言い聞かせて、阿良也は巌と夜凪のつく嘘に、騙されているふりをしていたのでした。
夜凪の家まで押しかけて彼女の感情を喰った時、自分の心無い振る舞いに憤るアキラに告げた、人は自分の気持ちすら自分でわかっていなかったりするもので、自分の気持ちのわからない役者は、他者の
気持ちもわからないという言葉。
それは自分のことではないかと。
「ジョバンニ」
夜凪に呼びかけられて我に返った阿良也に、最後の言葉が告げられます。
「さようなら」
次の瞬間、距離を詰めた阿良也が夜凪の右腕を掴み、
「阿良也!? 何して……!?」
台本にないその演技に、カメラ越しに見守る仲間たちが動揺の声を上げました。
夜凪を巌と同一視することで役に入り込んだ阿良也には、自分を置いていこうとする夜凪がもはや巌にしか見えず、カムパネルラとの別れは巌との別れと同義だったのです。
「いやだ」
親に置いて行かれる子供のように、目に涙まで浮かべて夜凪を引き留めながら、阿良也は思いました。
(僕は、俺は、本当の”別れ”というものを、知らなかったんだ)
【アクタージュ】第48話 別れ の感想・考察・49話の期待
巌の容態の急変から始まった波乱の舞台初日も、どうにか無事に終えられそうなようすで、天球のメンバーだけでなく、わたしもほっとしていました。
後はもう安心して見ていられると安心したのも束の間、阿良也の目に映る夜凪と巌の姿が重なり、段々と雲行きが怪しくなってきます。
さらなる進化を遂げた阿良也でしたが、役に入り込むために、夜凪と巌を同一視したことがここにきて逆に仇となり、ジョバンニの感情と自分の感情の区別がつかなくなっているように、わたしには感じられました。
カムパネルラの死に気づいていながら、そこから目を背けるジョバンニと、本当は巌の病気に気づいていたのに、現実から目を背けていた自分とを重ね合わせた阿良也は、感情の制御がきかなくなってしまいます。
アリサの感じた危うさや雪の胸騒ぎなど、今度は阿良也の暴走かとハラハラさせておいて、大丈夫だったことで肩透かしを食わせ、良かったと安心させた隙をついての暴走に、油断していたわたしは完全に不意を衝かれました。
若手ナンバーワン俳優の暴走を、夜凪はうまくおさめることができるのか、それとも最後の最後で皆の努力は水泡に帰するのか、49話からも目が離せません。
【アクタージュ】第47話 阿良也の芝居 のネタバレあらすじ
夜凪からの返事がないことに首を傾げ、阿良也は隣の席から対面へと移動し、その顔を覗き込みました。
「どうしたのさカムパネルラ。急に黙りこくって変だよ。ねぇカムパネルラ」
もはやこの時点で、カムパネルラの死を知らないのはジョバンニだけです。
それ故の無邪気な振る舞いが逆に、残酷な現実を知る観客たちの胸を締め付けてやみませんでした。
今までは目立たなかったジョバンニが、回想シーンとの目を疑うほどのギャップを利用することで、ここにきて圧倒的なまでの存在感を示し始めます。
純粋な少年を演じながら、阿良也は感謝の気持ちでいっぱいでした。
(巌さん、ありがとう。”出会い”と”別れ”をありがとう。俺はあんたの死を喰らって、より高みへと至る)
「カムパネルラ……返事してよ。カムパネルラ!」
すでに先ほどまでの幸福そうな表情ではなく、泣きそうに顔を歪めて親友に呼びかける阿良也の迫真の演技に、観客たちは息を呑み、評論家の男性は舌を巻きます。
本番前とは段違いだと、驚きを露にする仲間たちの中にあって、七生は理解していました。
出番が近づいても動揺から立ち直れなかった自分に、夜凪が声をかけてきた時に感じた、巌の匂い。
巌と夜凪を同一視することによって、阿良也はより役とシンクロしているのだと。
それを客席から見つめる千世子は思います。
自分の知っている役者にそっくりだ。
今日自分は阿良也にも会えてよかったと。
(これが憑依型カメレオン俳優、明神阿良也。不幸も幸福も、すべて自分の血肉とする怪物)
【アクタージュ】第47話 阿良也の芝居 の感想・考察・48話の期待
アリサが感じた危うさと、雪が感じた胸騒ぎは、阿良也の演技があまりにも真に迫り過ぎていたが故のものでした。
それはカムパネルラの死に気づいた時、ある種彼に依存しているようにさえ思える、ジョバンニがどうなってしまうのかという、不安に起因するものであるように私には思えました。
これは演技というものを、一般人よりもよく知る二人ですらそう思わずにはいられないほど、阿良也の演技が群を抜いていることの証明なのではないでしょうか?
再終幕まではある意味エキストラのように目立たず、自分の見せ場がきた瞬間に強烈な存在感を示す。
そんな緩急をつけた芝居ができることが、私には明神阿良也という役者の実力の高さを、物語っているように思えてなりませんでした。
そんな若手ナンバーワンとの呼び声高い阿良也と、この舞台でも急成長を遂げた夜凪が、最終幕でどんな演技をするのか、48話が楽しみ過ぎて辛いです。
【アクタージュ】第46話 回想 のネタバレあらすじ
最後の幕が開く直前の控室、沈思する阿良也が思い出していたのは、巌が夜凪とアキラを自分たちに紹介した時のことでした。
夜凪に関してはその潜在能力には気づいていたものの、まだ経験不足だと思っていたために期待しておらず、アキラに至っては、受け入れた巌に苛立ちすら覚えていたのです。
ところが蓋を開けてみれば、そんな自らの評価は的外れもいいところで、阿良也は2人の成長に喜びすら感じている自分を発見し、不意に椅子から腰を上げて笑い出しました。
他者だけでなく己すら過小評価していたことに気づいた阿良也は、巌に対して感謝の念を新たにします。
突然の行動に驚く仲間たちには目もくれず、阿良也は控室の天井を見上げて宣言しました。
「俺ももっと進化できる、もっと。今日証明してやる、自分に。巌裕次郎の一番は、俺だ」
同じころ客席では、突然泣き出したルイと、もう始まるよと宥めるレイを見守りながら雪は思います。
そう、感受性の強い子供が感情移入してしまうとすれば、カムパネルラではなくジョバンニの方だろう。
阿良也が既に成人していることすら忘れさせるほどの、高い演技力による純粋な少年の姿が、それを可能にしているのだと。
ふと視線を舞台に戻した雪は息を呑みました。
一人で登場した阿良也が、先ほどまでとは打って変わった、暗く疲れたような表情を浮かべていたからです。
しかしどういうことかと混乱する観客たちの疑念は、続く阿良也の演技ですぐに解消されました。
それは本来であれば冒頭に描かれるはずの、ジョバンニが病気の母親と話をする、回想シーンだったのです。
アリサも、時系列による感情の変化さえ完璧に演じわける阿良也を、まるでタイムトラベラーだと評価しました。
たった一人で母親との会話を演じてみせる阿良也が、カムパネルラが自分にとっていかに特別な存在なのかを語る場面が終わり、徐々に舞台が暗くなった後、すぐにまた舞台は銀河鉄道の中へと戻ります。
夜凪と並んで座席に腰かけ、頬を紅潮させながら会話する阿良也の幸せそうな表情は、直前の回想シーンとの落差に、アリサが思わず眉を顰めるほど輝いていました。
「ねぇカンパネルラ」
「なにジョバンニ」
「僕たちまた2人きりになったねぇ」
「うんそうだねぇ」
雪はなにごともなく、脚本どおりに進行しているはずの舞台が孕む不穏な空気に、なぜか胸騒ぎを感じている自分に戸惑います。
「ねえカムパネルラ。僕たちずっと一緒にいようねぇ」
しかし笑顔でそう言う阿良也に、夜凪からの答えは返ってきませんでした。
「……カムパネルラ?」
【アクタージュ】第46話 回想 の感想・考察・47話の期待
亀太郎や天球のメンバーたちによる、ハイレベルな演技。
夜凪の見せた、見事に死者の雰囲気を纏った演技。
動揺から無事立ち直った七生の、主演の2人にひけをとらない演技。
そして母親や本人すら気づいていなかった、脇役としての才能に目覚めたアキラの演技。
これら全ての要因に刺激を受けて、ついに自らすら過小評価していたことに気づいた阿良也が、この舞台で進化しようと決意をするシーンには、わたしも興奮しました。
しかしその変化はあの星アリサが危うさを感じ、観客席で夜凪の弟と妹の面倒をみながら、舞台を見守る雪が胸騒ぎを覚えるようなものであったことが、わたしも少し不安です。
夜凪がブルドーザーにならずに頑張っているのに、まさか阿良也が暴走するのではあるまいなと。
まあ、きっと大丈夫であろう47話も、期待と不安半々くらいで待ちたいと思います。
【アクタージュ】第45話 幕間 のネタバレあらすじ
降車するアキラと七生からの別れの挨拶を受け、夜凪と阿良也も挨拶を返しました。
最後に感謝の言葉を述べる夜凪に、アキラは少し沈黙した後こちらこそと破顔します。
その後照明が落ちて幕が閉じられ、15分間の休憩がアナウンスされます。
観客たちの間では、芝居そのものが圧巻だったという感想はもちろんのこと、アキラが見せた演技も話題でした。
中にはあれはない、舞台でする芝居じゃないし、そもそもアキラにそんな需要があるのかという、観客からの否定的な意見もありましたが、評論家や映画監督の意見は違いました。
そういう意見もあるとは認めつつも、彼にあのような芝居ができたことにこそ、意味があるのだと思っていたからです。
むしろ今後の急成長を確信し、自らの作品に出演させたいと思う監督さえいたほどの高評価でした。
アリサは思います。
今まで主演俳優しか育ててこなかったが故に、息子に脇役の才能があるなんて考えたこともなかったと。
舞台裏ではアキラがほかの団員たちに、稽古どおりに芝居ができなかったことを謝罪していました。
そんなアキラの頬を、亀太郎が両手で勢いよく挟んで歪めながら告げます。
「最高にダサかったぜアキラ。忘れんなよその感覚」
瞠目するアキラは、メンバーたちが口々にアキラっぽかったとか、童貞臭かったとか感想を述べるのに、何の話だとつっこむのでした。
そこで、
「俺は」
とメイクをなおされている阿良也が唐突に口を開き、アキラは驚いて口を噤みます。
「一目見てそいつの人となりを知った気になるきらいがある。悪い癖だ。君の芝居は本当に素晴らしかった。ありがとう星アキラ」
かつて追いつきたいと願った相手に評価され、アキラは、
「……いえ」
と答えるので精一杯でした。
客席ではアリサが考え続けています。
巌は自分に息子の才能のことを教えるために、アキラを抜擢したのだろうかと。
別の客席では、舞台を見つめたまま動かないルイに、雪とレイが声を掛けます。
ルイは言いました。
まだカムパネルラが死んじゃっていることに気づいていないジョバンニは、これからお別れをしなくちゃいけないんでしょ? と。
そして、あんなに仲良しなのに可哀想と目を潤ませます。
舞台裏には、周囲が声を掛けるのも躊躇うほどに集中する阿良也と、役に入り込んだまま、静かに椅子に座っている夜凪の姿がありました。
それを心配そうに見守るアキラに、亀太郎が言います。
「後は見守るだけだ俺たちは。この幕間が終われば最終幕だ。ジョバンニとカムパネルラの最後の旅路だからな」
【アクタージュ】第45話 幕間 の感想・考察・46話の期待
一皮剥けたアキラの芝居に、観客たちからは賛否両論の声が上がりましたが、映画監督や評論家、同じ俳優からの評価は高かったのが印象的でした。
母親のアリサも、息子の脇役としての才能に気づき、彼をこの舞台に参加させた巌の思惑を悟ります。
かつて夜凪と一緒に舞台を見に行き、どうすれば追いつけるのかと思わせられた阿良也からも、素晴らしい芝居だったと感謝されたアキラは、確かに羽化したのだとわたしには思えました。
舞台初日の成否は、夜凪と阿良也の最後の演技に委ねられます。
二人が最後まで観客を魅了し、大成功の報告を巌に届けられるのか、それともまだなにかアクシデントが起きるのか。
さらに巌に病室を追い出された黒山は、夜凪の成長を見届けることができるのか、46話のフィナーレが待ちきれません。
【アクタージュ】第44話 僕の言葉で のネタバレあらすじ
夜凪の突然のアドリブに動揺したのは、アキラだけではありませんでした。
モニターでそれを見ていた天球のメンバーたちも、どうしてこんなことを、と戸惑います。
しかし完全に役に入り込んでいる阿良也と七生は、アキラの顔を見て心配そうにしながら、
「ほんとだかけて休んでください」
「大丈夫……?」
と見る者になんの違和感も抱かせないほど、自然にそのアドリブに乗って見せました。
またしても自分だけがついていけていないことを思い知り、アキラは衝撃を受けます。
そして言われるがままに椅子にかけながら、アキラは恐怖を覚えていました。
当然即興劇に、台本やセリフなどあるはずがないからです。
彼はそのことがこれほどまでに怖いものなのだと、生まれて初めて知ったのでした。
アキラはなんとかセリフを台本どおりに戻そうと、懸命に軌道修正を図ります。
彼らの乗っていた船に用意された救命ボートの数には限りがあり、自分達が助かるためには、皆を押しのける必要があったのだと。
そのような真似をして女の子だけを救うよりも、皆で一緒に天上に向かう方が、この子の本当の幸せだと思ったから、この汽車に乗車することになったのだと、夜凪からアドリブに、なんとか台本どおりの答えを返したのでした。
ところが夜凪は、ここで再びアドリブを入れてきます。
「今はどんな気持ちですか?」
と。
アキラもメンバーたちも、夜凪が一体なにを考えているのか、全く理解できません。
しかしそれは決して、過去に幾度かあった、役に没入したが故の暴走ではありませんでした。
もしもその時皆を押しのけていれば、あなたたちは今この場にはいなくて済んだかもしれない。
残された家族も、悲しい思いをしなくて済んだかもしれない。
それでも、それでも自分は正しかったと思いますかと、そう続ける夜凪は、ザネリを救うために命を落として、自らの自己犠牲がいいことなのだと信じ、残された母親は自分の死を許してくれると信じている、カムパネルラそのものでした。
残された家族や友人たちが、自分を許してくれると信じるしかなかった、カムパネルラそのものだったのです。
そしてそれは、巌を見続けることで知った、大切な人たちを置いていくしかない死者の言葉でもありました。
「教えてください。僕たちは本当に正しかったのですか?」
そうアキラに尋ねる夜凪の表情は、今までの穏やかさから一転して歪み、眉間には深い皺を刻んだ、今にも泣きだしてしまいそうに見えるほど苦しげなものでした。
その問いに目を見開いたアキラは、自分が間違っていたことに気づきます。
今まで彼は、誰からも非難されることのない正しい答えが、図書館や教科書、偉人の言葉や台本の中にあるはずだと信じており、それを探すことを努力というのだとすら思っていました。
しかしそんなものがこの世にないからこそ、カムパネルラは苦しんでいるのだと気づいたのです。
アキラには今の夜凪は、もう既に彼女ではなく、カムパネルラにしか見えません。
彼は椅子をがたつかせて立ち上がり、わざわざその場から離れて客席に背を向け、台本のセリフではなく自分の言葉で、カムパネルラの質問に答えようとします。
スターズでは教えていないそのデタラメな芝居に、彼を知る者たちは面食らいました。
しかし時が経つにつれて、アキラがセリフを言えば言うほどに、観客の目がそれを聞く夜凪たちに向かっていくことに気づきます。
まるで闇があることが逆に光の存在を浮き彫りにするように、影から主役たちを輝かせる美しい脇役の才能が今、舞台の上で産声を上げようとしていました。
【アクタージュ】第44話 僕の言葉で の感想・考察・45話の期待
慣れない初舞台で惑うアキラに、同じく初舞台にもかかわらず、アドリブまで入れてしまう夜凪という、明暗がわかれたかのように対照的な二人の姿に、アキラのことが心配になってしまったのは、わたしだけではなかったはずです。
アキラがなんとか軌道修正したのに、夜凪が再びアドリブを入れて、舞台裏の天球のメンバーがざわついた時には、またしてもブルトーザー夜凪がその本領を発揮するのかと思いましたが、彼女はちゃんと成長していました。
段々と死に近づいていく巌を見つめ続けることで、死者の気持ちを理解した夜凪が、カムパネルラとして、自分と同じく大切な人たちを残していくことを選んだ青年に、自分たちは本当に正しかったのだろうかと、正しい答えとはなんなのかと教えを乞うていたのでした。
夜凪の表情からそれを察したアキラは、この質問には僕の言葉で向き合わなくてはならないのだと気づき、母親のアリサがみっともないと眉を顰め、知人たちが面食らうほどにデタラメな演技をし始めます。
しかし、それこそが巌が自らの劇団にアキラを迎え入れた理由である、美しいバイプレーヤーとしての才能の発露だとがわかった時には、おおっと一人で盛り上がってしまいました。
45話を読むのが、今から楽しみです。
【アクタージュ】第43話 正しい芝居 のネタバレあらすじ
次第に熱気を帯びていく舞台の上に、ついに七生が登場します。
現れるなり車窓からの景色に見とれる七生に、カムパネルラ役の夜凪が、この汽車が銀河を走っていることを教えました。
素敵だと喜ぶ七生から相席の許可を求められ、受け入れる夜凪とジョバンニ役の阿良也でしたが、二人は七生の髪が濡れていることに気づきます。
どうしたのかと尋ねる阿良也に、髪から水滴を滴らせながら、
「船が沈んでしまったの」
と答える七生の表情は、先ほどまでの明るさなど見る影もなく、客席のルイがぞっとして、思わずレイのTシャツの袖をぎゅっと握るほどの変わりようでした。
新たに登場した女の子役の七生と青年役のアキラは、共にタイタニック号の犠牲者と思われる乗客という設定であり、阿良也と観客たちに、銀河鉄道の乗客が死者であることを気づかせる重要な役どころです。
アキラが登場
ここでようやくアキラが登場。
今まで培ってきた経験と技術を駆使して演技を始めたものの、やけに近い客席が気になってしまったり、舞台上にいる自分以外の三人が裸なのに、自分だけが服を着て演技をしているような情けなさを感じたりして、いつも通りの演技ができなくなってしまいました。
舞台裏の天球のメンバーも、モニターでその様子を見ながら、アキラが形だけの演技になってしまっていることに気づきます。
初めての経験に混乱し、なんとか立て直そうとするアキラでしたが、必死に考えを巡らせている最中に、ふと巌の言葉を思い出します。
それは公演は数十日にも及ぶので、進化する芝居こそが演劇なのだというものでした。
アキラはまるでその言葉が免罪符ででもあるかのように、舞台はなにも今日だけじゃないのだから、今日はこのままやり過ごしてしまえばいいのだと思いつきます。
そうだそうしよう、今日の反省を明日に活かそうと。
そうすべきでそれが一番正しいのだと、自分に言い聞かせるアキラの脳裏では、
「お前も巌さんに認められたからここにいんだろうが」
という亀太郎の言葉と、
「きっと皆さんに認められる芝居をするつもりです」
という自らの言葉が再生されていました。
そんなアキラに、夜凪が具合が良くないようですけど、
「大丈夫ですか」と声を掛けます。
アキラもそれをモニターで見ていた天球のメンバーも驚きました。
脚本に、そんなセリフは存在しなかったからです。
それは夜凪のアドリブでした。
どうして僕にとか、まずい早く返事をしなくてはと焦るアキラに、夜凪は不思議そうな表情を浮かべて、椅子にかけるように勧めます。
アキラはますます混乱してしまうのでした。
【アクタージュ】第43話 正しい芝居 の感想・考察
不安を抱いたまま舞台に上がったアキラでしたが、先に出番を迎え、舞台上でその存在感を充分に発揮した七生と違い、慣れない舞台でうまく演技入り込むことができませんでした。
その視界に何度も入ってくる客席には、母親である星アリサの姿があって、母親の呪縛の強さというものを感じさせます。
アキラは綿密な演技プランをたて、何度もそれを読み込み、稽古では実力派ぞろいの劇団天球のメンバーに、なんとか食いついていけていたはずだと自分では思っていたのです。
ところがいざ舞台上に上がって演技を始めた途端に不安は的中し、既に舞台の上で一つの世界を作り上げている仲間たちと、同じ景色が見えていない自分に気づいてしまったのでした。
本番は返って余計なもんが目に入りやすいと語る亀太郎は、わたしには今のアキラの気持ちが、手に取るようにわかっているのではないかと思えました。
突然夜凪にアドリブをはさまれてしまったアキラが、うまく初日を乗り切れるのか、第44話が気になって仕方ありません。
【アクタージュ】第42話 星アキラのネタバレあらすじ
巌の危篤の一報に動揺が走ったものの、開幕した舞台「銀河鉄道の夜」。
夜凪がみなを引っ張り、舞台の上では阿良也演じるジョバンニと夜凪演じるカムパネルラを乗せて銀河鉄道が走り続けます。
出番が近づいている星アキラは、彼らの演技を見てやや焦ります。
「彼らは巌に見出された役者たち。だが自分は・・・」、
と、良くない形で自分の立ち位置を感じているのでした。
巌の不在に動揺し、そして夜凪の演技で立ち直った七生にアキラは励まされるのですが、アキラの顔色は依然よくないままです。
アキラの中には、どうして自分がここにいるのか、という自分への問いかけか浮かび上がってしまうのでした。
幼い頃のアキラは、母親の後継のため役者の現場をたくさん見てきました。
母親の思惑とは異なり、アキラを引き付けたのは、役者の仕事です。
かつての母がそうだったように、役者という仕事はアキラを強く引き付けました。
母は幼いアキラを何度も諭します。
母が見た役者という仕事、役者という果てなき業、そこにある不幸、それを星アリサはそれをわかっていました。
だから、息子に同じ道を歩ませたくなかったのです。
しかし、子役として活動を始めてしまったアキラ。
アキラはそれを自分の力だと信じていましたが、それはあくまで母の力だということを知ります。
子供だったアキラは3日引きこもり、演技の指南書を読み続けます。
そして、
「本物の役者になる」
と決意を示し、母を説き伏せます。
それから親の七光り、イケメン役者と言われながらも、努力をしてきたアキラ。
アキラは芸能界という儚さを理解しています。
そしてそこでしか生きられない役者の生き方の中に、ほんの一握りだけ、本物がいることに気がついています。
子供の頃から努力し、役者になるために突き進んできたアキラ。
本物を前にそうでない自分を理解していながらも、この舞台に立つことを少しも悔いていないこと、それはひどく愚かで恐ろしいこと、母の提示した役者の不幸ではないけれど、一つの不幸であることも全てアキラは理解しているのでした。
【アクタージュ】第42話 星アキラ の感想・考察
親の七光り、イケメン俳優という枠で、なおかつチーム巌にアウェーっぽさのあった星アキラの独白回でした。
夜凪を前にして、本物を感じてしまったアキラが、舞台でどう演じ、チーム巌に引っ張られて、違うアキラになれるのか気になるところです。
チーム巌の中では、演技の感覚が、読者に近い立ち位置のアキラ。
努力や経験でのみだけが結果を生まない世界の残酷さが際立っています。
アキラは十二分に持っているのに、夜凪を前にすると持たざるものでしかないのです。
それでも好きなら、その道しかアキラにはないのでしょう。
みんなをどこまでも置いてきぼりにする夜凪は、まさにジョバンニを置いていってしまうカムパネルラそのものですね。
死へ向かう列車に舞台の上で乗ることで、イケメンや七光りといった人生を捨て、アキラは次の生を得られるのでしょうか。
【アクタージュ】第41話 新星らのネタバレあらすじ
登場しただけで目を奪われるような、尋常ならざる存在感をまとった夜凪の姿に、観客たちは衝撃を受けます。
七尾には巌が夜凪を劇団天球に連れてきた意図を、ようやく理解できたような気がしました。
異常なまでの役に対する没入の度合いと成長速度、そして人を写す鏡のような芝居をする夜凪をとおして、自分たちを銀河鉄道に乗せるためだったのだと。
まるで別人にしか見えない夜凪に、家族や知人たちまでが驚きを隠せない中、千世子だけは目を輝かせて、素敵だと笑います。
ジョバンニ役の阿良也と、カムパネルラ役の夜凪の会話が続く中、いち早く舞台の簡素さに気づいた武光は驚きました。
舞台には椅子が置いてあるだけだったからです。
遅れて気づいた俳優仲間たちも、銀河鉄道に乗り込んだにもかかわらず、セットが用意されていないことに困惑をあらわにします。
しかしそれも、夜凪の次の演技が始まるまででした。
武光は、カシャンと車窓の開く音が聞こえた気がしました。
そしてそれは、他の観客たちも同じだったのです。
その演技力と異常すぎる成長速度に、夜凪とかかわったことのある二人の監督は、まるで別人だと舌を巻きます。
客席で瞠目している男は、もう一人いました。
巌裕次郎の芝居を40年見続け、芝居の評論を生業にしているというその男は、ついに現れた星アリサを想起させ、阿良也と肩を並べる演技をする夜凪を見て、何者だあれはと呟きます。
そしてついに、見る者全ての心の中にある、銀河鉄道のイメージが舞台へと投影されることで、巌の意図したとおりに、椅子しかなかったはずの舞台の上は、銀河鉄道を走る汽車の中になりました。
それを見て、舞台や芝居の中に巌の演出が生きていることに気づいた七尾は、自らペットボトルの水をかぶることで自分に活を入れ、ようやく巌不在の動揺から立ち直ります。
客席から舞台を見ながら、千世子はどうしてあそこに立っているのが自分ではないのか、と悔しく思っていました。
そんな中星アリサは、巌裕次郎がアキラをこの最後の舞台に受け入れた意図がわからず、訝しさを覚えます。
アキラ本人にすら、この劇団の中で自分の演技が通用するのかすらわからないまま、アキラの出番は刻一刻と近づいていました。
【アクタージュ】第41話 新星の感想・考察
初日から劇団の中心である巌裕次郎の危篤という、ハンディキャップを負った状態で始まった銀河鉄道の夜の舞台ですが、阿良也や亀の熱演で、観客を惹きつけることには成功したものの、巌の危篤に動揺を隠せない七尾が、周囲にまでそれを振りまき始めたところで、夜凪が舞台に上がるという実に燃える展開でした。
登場した瞬間の夜凪の抜群の存在感や、阿良也と夜凪の圧巻の演技に、舞台の上には椅子しか用意されていないにもかかわらず、観客たちが銀河鉄道を走る汽車や、そこから見える風景さえ幻視してしまうシーンは鳥肌ものです。
それを見て頭から水をかぶり、なんとか気を取り直した七尾や、親にさえ低い評価を受けるアキラが、これから舞台の上でどのような演技を見せるのかといった、今後の展開からも目が離せません。
次回の【アクタージュ】第42話の週刊少年ジャンプの発売日は、2018年11月19日になります。
アクタージュ|ネタバレのまとめ
漫画を「ネタバレあらすじで楽しむ」のも楽しみ方としてアリですが、やはり漫”画”なので、せっかくなら”画”とあわせて読んだ方が面白さは倍増します。
漫画村のようなサイトを使わなくても、当サイトでは、無料で漫画を読める方法を紹介していますので、そちらを利用して、漫画を楽しんでみてください。
安全な公式サービスを紹介
漫画が読めるサービスまとめ | ||
U-NEXT | ブックパス | music.jp |
FODプレミアム | BookLive! | コミックシーモア |
まんが王国 | イーブックジャパン | コミック.jp |
Renta! | スキマ | ブック放題 |
マガジン☆WALKER | 漫画全巻ドットコム | コミックウォーカー |
honto(ホント) | dマガジン | 楽天マガジン |
コミなび |
コメント